2016年11月
文・高松徳雄

 

2016年11月6日、クラリスブックスにて読書会を開催しました。課題図書は、柳田国男の『遠野物語』。

tonoblog

日本の民俗学の出発点にして、到達点。簡潔かつ明快な文章は、後の文学作品にも多大な影響を与えたと言われています。私はこの作品を以前読んだことがありました。それは、2011年の東日本大震災の年でした。津波で甚大な被害を受けた東北地方には、過去にも津波による悲劇が多数あり、『遠野物語』にもそのことが描かれているということをどこかで見聞きし、それを確かめたいという考えがあって手にとりました。また、前々から、水木しげるの妖怪たちの元となったというこの作品を読みたいとも思っていました。

今回読むのは二回目ですが、最初に読んだときよりは読みやすかったのですが、やはり進んでいかないと、なかなか読みづらいというのが第一印象。
読書会に参加された方もこういう感想をお持ちの方が多かったように思います。ただ、読み進んでいくと、徐々に読めてくる、慣れる、そして、その文体自体がむしろ心地よくなってくる。これは、やはり漢字とひらがな、さらにカタカナが混ざっていることで生まれる視覚的な、日本語特有の不思議な感覚なのかもしれない、と思いました。

河童や座敷童が出てきたり、幽霊と会ったり、変なおじさんがいたり、天狗のような大男が出てきたり、などなど、こういった超現実の物語が生まれる要因にはいろいろな理由が考えられると思います。台風や津波、あるいは天候の悪化による飢饉などによって親類縁者が亡くなるという悲劇、また、それに関連して子供を売り飛ばさなければならないという悲劇など、まさにこの『遠野物語』に収められている物語群は、「生きているものたち」が、自分自身の存在と行動の正当化、現在の境遇への同調、そして、「死んだものたち」への弔いや鎮魂の想いがぎゅっと結実した形であると考えられないでしょうか。ギリシア神話など、世界中の神話、伝承にも類似の物語が多数存在するということは、『遠野物語』に収められているこれら物語が、人間の根源的な価値観に繋がる何かを含んでいるからに他ならず、参加者の方も言及されていましたが、神話や錬金術、マンダラに、人間の深層心理を求めたユングの学説から、『遠野物語』を紐解くという試みは、大変有意義なものだと感じました。

古本買取クラリスブックス、遠野物語柳田国男

『遠野物語』に収められている物語の中には、神話や伝説とは言いがたいものも含まれています。しかし、ここに書かれることで、そういった事件やさまざまな出来事は記録され、後の世に伝わることとなる、このことを考えると、この作品の持つ意義は特に大きいと考えざるを得ません。収められている物語は、おそらくその全てが口伝として、地域としてはかなり局所的に、ある種の「不思議な出来事」として伝わっていたはずで、それは外部には決して出てこないものだったにもかかわらず、これがこのように文字として残り、広く流布されるということ、このことは大変大きな意味があることだと思います。

古本を扱っている身としては、いろいろと考えさせられます。一体どれだけの情報を後世に伝えることができるのでしょうか?どこか遠い星で起こった超新星爆発の影響で、電磁波やその他何か得体の知れない電波が地球上に降り注ぎ、地球に存在するデジタルデータが一気にすべて失われるということがあったとして、情報が残っている媒体は、本や石板、プリントされた写真などなど、そして人々の頭の中。そもそも、例えば駅前の商店街の角にあった店がつぶれて新しい店舗になって、その前の前はなんという店があったのか分からない、ネットで調べても出てこないなんてことがよくあります。ネット上の情報というものが、ごく僅かなものであって、我々が知り得るもの、そして伝えられるものというのが、本当に限りあるものにすぎないということを思い知らされます。

話がちょっと逸れましたが、この作品の内容もさることながら、この『遠野物語』という作品が存在すること、そのこと自体の意味をも考えてしまう、そんな読書会になったと、個人的には思いました。

高松徳雄

 

 

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