2014年3月
文・石村光太郎

2014年3月2日に開催いたしました読書会(課題図書はいとうせいこうの『想像ラジオ』)のご報告をいたします。

この本は昨年2013年に出版された本で、2014年本屋大賞ノミネート、第35回野間文芸新人賞受賞作で、さらに芥川賞の候補にもなったとのこと。

ラジオ

『想像ラジオ』 いとうせいこう 河出書房新社 2013年

想像ラジオとは震災の津波に飲み込まれ、とある森の奥深くの杉の木の上に打ち上げられた男が、というよりも彼の魂のようなものが、未明の午前2時46分に誰かに呼びかけるように始めたラジオ番組。ただしこの番組にはスタジオも電波を送信する設備もなく、ひたすら主人公DJアークは想像の中で語り、曲を送り続ける。いつしか彼の声に応答するリスナーたちの声が彼の想像の中に聞こえてくる。だがこのリスナーたちもまた。。。

 

今回の読書会は、私たちクラリスブックスのスタッフも含めて、合計8名で行いました。まず一人5分間で全体の感想、思ったこと、印象に残った箇所などを発言してもらいました。

その後少し休憩を挟んで、自由に議論をしてもらいました。

想像ラジオ集合写真

話の中心は、主に生と死について、死んだ者の声をいかに拾うか、我々残された生者はどのように生きてゆけばいいのか、民俗学との関連性、世界観や宗教観について、そして話は日本人論などにも展開していきました。

「死者の声」というこの小説のモチーフに対し、出席者は概ね心打たれたのですが、本当に亡くなった方達はこのような心持ちであったろうか、もっと痛くて、苦しくて、悔しい思いがあったのではないかという意見もあり、複数人で行う読書会ならではの多様な思いの重なりがありました。

この小説自体は明確には先の東北の震災を舞台設定とはしておりません。時代も日付も設定されておりません。しかし人物たちが東北の方言でしゃべることや、2時46分という時間からもその関連性は明白です。我々の読書会の話のも各人の震災とそれ以後の思いを語るという流れになっていきます。

震災後、何故か無性に“行動したくなった”という方が多く、それはボランティアという活動だったり、芸術活動だったり、花を生けるという行動だったり、何か漠然と“前へ”進みたくなる、なにかしらのアクションを起こしたくなる、そのような衝動にかられたという意見が多数ありました。

これは私個人の意見ですが、震災では沢山の方が一瞬にして無に帰してしまいました。彼らには進み行く道も無ければ、成長する時間もありません。記憶の中へと閉じ込められてしまいました。それに対し、私たち生きている者たちは、一歩でも踏み出すことでもよいし、花を一輪そっと挿すことでもよいので、一歩、一歩、膨大な悲しみの記憶と折り合いをつけ一日を進めてゆくことができる。だから震災後、訳も分からず行動に掻き立てられたのだと、「想像ラジオ」を読み進むうちに、はたと気づかされました。「我々はもういない」「我々は言葉を発しない」「想像せよ」「動け」「我々の過去はあなた方の未来と行動の中にある」そんな声を私は想像しました。

今回の読書会にはまったく「想像ラジオ」読んでおられない方も出席されていたので、後半は震災が各人へもたらした思いに関し、かなり長い時間にわたり語り合いました。震災当日皆何をやっていたかということ、震災後の社会の様子に違和感を感じることなど、かなり率直な意見も交わされました。終了後、「実は震災のことに関し、人の集まりの中で、真摯に語ることが無く、今回は本当に良かった」と読書会に感謝の言葉もいただき、これは一冊の書物の求心力があればこそだと思うので、本を読むという行為はページをたどるのみに終わらないと、改めて知る機会になった読書会でした。

最後に、東北の震災はまだまだ人々に心身とも大きな傷跡を残しています。今後50年、いや100年先ぐらいになるかもしれませんが、この震災が過去の中に静かに沈着してゆき、記憶からもそっと消え入りそうになるころに「想像ラジオ」はどのように読まれるのか、その時にまた「想像ラジオ」で読書会を行いたいと思います。

蛇足になりますが、今回の読書会は「想像ラジオ」に取り上げられた楽曲を実際にBGMとして流しました。想像で聴いてくださいと書いてあるものを、リアルで流すのは野暮な行為かなと思ったのですが、思いついたことはやってみようと曲を流しました。会に何らかの化学反応を起こすことはできたのでしょうか。

 

想像ラジオ2

想像ラジオ3

想像ラジオ4

クラリスブックス 石村

 

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