2016年7月
文・高松徳雄

 

7月3日に当店にて読書会を開催いたしました。課題図書は、バルザックの『ゴリオ爺さん』、今回も多くの方にご参加いただきました。誠にありがとうございました。

私自身は初めてバルザック作品を読みました。今回ご参加いただいたほとんどの方も初めて読まれたとのこと。ただお一人、バルザックが好きで、特にこの作品『ゴリオ爺さん』を何度も読まれている方がいらして、その為、他のバルザック作品との関連も含めて、いろいろなお話を聞くことができたので、とても充実した会になりました。

古本買取クラリスブックスゴリオ爺さん

ドストエフスキーに影響を与えたというバルザック、それだけではなく、近代文学の出発点とも考えられる彼の作品群には、生身の人間そのものが描かれていて、その為、とても現実主義的というか、リアリズムの極致といったような印象が読後には残りましたが、しかし、すべてが金に支配された世界で右往左往する人々の悲喜こもごもは、それ自体があまりに極端すぎて、却って人々の生活そのものの象徴・典型としての物語に仕上がっているようにも思えました。そしてそうだからこそ、長く読み継がれ、ドストエフスキーその他、多くの文学者に影響を与え、世界文学という観点からも、とても重要な位置にバルザックが存在しているのだと思えました。

『ゴリオ爺さん』は登場人物が多く、それぞれの関係を頭の中に入れるのが大変で、最初の方は読み進めるのに一苦労しました。参加者の方の多くもやはり同じような感想でしたが、しかし、長く険しい坂を登りきると、あとは一気に駆け下りるといった具合で、ラスト数十ページはとても痛快というか、もやもやしたものが一気に吹っ切れたような感じで読み終えることができました。

古本買取クラリスブックス表紙ゴリオ爺さんgoriot

二人の娘を溺愛するあまり、どんどんみすぼらしくなっていくゴリオ爺さん。その描写は凄まじく、例えばゴリオ爺さんの部屋の汚さは読んでいて悪臭すら漂うよう。一見これは「悲劇」なのだか、しかし遠くから俯瞰すると、結局すべてが「喜劇」なのではないか。なんだかここに、光と影が交差する19世紀のパリという街を豪快に食べ歩き、隅々まで知り尽くしたバルザックの辛辣な皮肉が潜んでいて、タイトルは一人の登場人物の名前であるにもかかわらず、結局のところ、この作品で描かれていることは、パリという街そのもの、近代都市たらんとする19世紀の都市そのものなのかもしれない、などと思えました。

ドストエフスキーの『罪と罰』の、マルメラードフ一家のてんやわんやの場面を拡大し引き延ばして、そして細かく描写したような小説、最初読み終わった時、私はこの『ゴリオ爺さん』をざっくりこのように考えたのですが、しかしドストエフスキー作品の登場人物以上に、「常に興奮状態」の人々、そして金、金、金。これら異常なまでの極端化は、おそらくバルザックの性格上、ドストエフスキーのように、そのような現実から宗教的なゴールに向かう、あるいは目指すことなく、むしろエンタメ小説としても十分に通用する、痛快なメロドラマの典型にもなっているのではと思いました。

主要登場人物が他の作品で主人公として活躍する、いわゆるスピンオフ作品を多数世に送り、全体として「人間喜劇」としてまとまっているバルザックの作品群。この手法を編み出した時、「俺は天才だ!」と叫んだとのこと。彼の肖像画を見ると、若い頃から小説を書きつつもうまくいかず、出版業にも手を出し、結果失敗して膨大な借金を作り、それでもやはり小説を書いて、その原稿一枚一枚をお金に換えて生活してきた、その豪快な生き様すら窺い知ることができるようで、それはそのまま彼自身の作品にも投影されているように思えてなりません。
魅力的な登場人物が他の作品では主人公として大活躍、、、ついつい「人間喜劇」作品群としてまとまっている他の作品も読んでみたくなってしまう。なんだかバルザックの手法にまんまと乗せられてしまったかもしれません。

 

クラリスブックス 高松

 

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