2018年2月
文・高松徳雄

 まず、曖昧な表現ですが、非常に濃厚な読書会になったと思います。
この作品に関して、私は、やはり、世界文学は素晴らしい、と率直に感じました。第一次世界大戦前夜、そしてヨーロッパという舞台設定はありつつも、それら時間的空間的設定を飛び越えたところに思想的基盤があり、その為、重層的なテーマを我々読者にいろいろな形で訴えかける、まさに、世界文学、あるいは、古典的名作、と感じました。もちろん、あまり面白くなかった、ピンとこなかった、という感想をお持ちの方もいらっしゃいました。私としては少し残念な感想ですが、捉え方は人それぞれ、仕方ありません。

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この小説、青春物語として読んでいくと、おそらくその本質を掴むことができないのではないか、ヘブライズムとヘレニズムという二つの巨大な柱に支えられ、その相克のうちに出来上がったヨーロッパ理性主義、その根幹を破壊した世界大戦という悲劇、そういった背景を理解すると、よりこの作品の内に潜む深い思想が見えてくるのではないか、そのように感じました。
また、ユングの思想、そして、キリスト教以前から連綿と受け継がれているグノーシス思想、この影響下にこの作品が書かれたことは間違いないと思いますが、しかし、それらを深く理解するには、相当な知識が必要で、「アプラクサス」という特定の単語を連発するあたり、なにか、作者ヘッセが相当グノーシス思想に熱をあげている感があり、正直、こういった特定の単語を持ち出す表現方法に関しては、小説という舞台を逸脱しているのでは、と感じました。
参加者のお一人が、ヘッセ自らの思想を小説という表現にうまく落とし込んでいる、と言われて、私はその通りだと思いましたが、上にも書いたように、若干、思想色が強すぎるというか、少し物語が置いてけぼりにされている感はあるのではないか、とも思いました。
ちなみに、作中では「アプラクサス」と言われていますが、グノーシス神話では、「アブラクサス」と言われています。地上界から天上界へ導く神で、ギリシャ神話のヘルメスとも通じるのではないかと考えられます。ヘッセは意図的に単語を少し変えたのではないか、と思います。

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第一次世界大戦後にこの作品は発表され、当時のドイツの若者から支持を受けたとのこと、この作品が支持されるという社会的状況は、よほど当時の若者が精神的に疲弊し、病んでしまっている証拠ではないか、と読書会参加者の方が言われて、なるほど、と思いました。
この作品、単に面白かった、つまらなかったという言葉では済ますことができないのではないか、と思います。プラトンの『パイドン』や、ルネサンスのフィチーノの著作を読んで、一言二言では片付けられないと同じように、なにか、図像学的解釈が必要な文学作品、という印象を受けました。久々、がっつり世界文学を読んだ、という気持ちになりました。

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