2018年1月
文・高松徳雄

2018年1月7日、今年最初の読書会が開催されました。
森鴎外の『雁』、私は、最初ちょっとピンと来なかったというか、物語が急にストンと終わった感があって、また、これは言い訳ですけけど、年末年始を挟んで読み進めたので、年末に読み進めた最初の方がどこか遠い彼方に行ってしまって、少し頭の中でぼやけてしまったということもあり、、、そんな状況だったので、今回の読書会、個人的には、作品を理解する上で参加者の皆様に特に助けていただけたと思いました。誠にありがとうございました。
私は、昔の日本語の表現や漢字が特に苦手なので、そもそも文章自体が読みづらく感じでしまったわけですが、それでも読んでいくうちにだんだんと読めるようになってくる、むしろ心地よくリズム感がある文体に思えてくる、これが文豪なのか、とぼんやり考えました。

古本買い取りクラリスブックス 読書会 日本文学 森鴎外

さて、物語冒頭、頭も良くて礼儀正しい岡田なる書生が話の中心として進んでいくかと思いましたが、高利貸しの末造とその妾であるお玉の話が挟まっていて、しかもこれが文量として結構長い。岡田、どこに行ってしまったのか、と思いながら読み進めました。
結局この小説、何も起こりません。もちろん、細かくいろいろなこと、日常的な出来事は起こりますが、妾であるお玉と書生である岡田、結局結ばれることはありません。だからこの小説は、何も起こらなかったことを、淡々と記した、と言ってもいいかもしれません。しかしその客観的視線の先には、当時の社会に対する批判、あるいは、私小説や自然主義文学への皮肉のようなものもあったのかもしれません。また、主要登場人物であるこの三人の中で、岡田だけが名字というところに、何か作者森鴎外の意図があるのではないかと思いました。

最後にようやく雁が登場。その雁に石を投げあてて殺して食べてしまうというくだりがさらりと描かれていて、少し前のくだりで、鳥かごと蛇の一件で、あるいは岡田とお玉が接近してなにかしらの交わりが展開されるのかと思いきや、特に何も起こらず平常に戻ったという出来事があり、そこを踏まえて、おそらくこの、雁に石をぶつけて食べるという出来事には、何かしら隠されたメッセージが見え隠れしなくもないのですが、その深い考察に踏み入るだけの能力のない私は、それより、ここ東京で鳥に石をぶつけて殺して食べてしまうという行動そのものが、現代から考えるととても衝撃的な光景に写り、東京という街は一気に近代化してしまったんだなー、となんとなく寂しい気持ちに、また同時に、昔への憧れの気持ちも浮かんでくるのでした。

古本買い取りクラリスブックス 読書会 日本文学 森鴎外

この小説、参加者の方が実験小説と言われて、そう言われると、なるほどな、と感じました。
何かいろいろなメッセージを隠した小説、劇的な出来事が何も起こらない、そのこと自体がむしろ話の本筋だったのかな、とも。
私にとっては、完全にその良さを理解できたとは到底思えない小説ではありましたが、だからこそなおのこと、私が入手したこの文庫版には森鴎外のその他主要な作品が多数収録されているので、頑張って挑戦してみたいと感じました。まだまだ修行が足りないと実感した読書会でした。

 

クラリスブックス 高松

 

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