2014年11月
文・石村光太郎

11月2日の日曜日に読書会を開催いたしました。
課題図書は、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の『怪談』でした。

有名な作品の為か、比較的短い作品の為か、今回の読書会は告知をしてからすぐに定員になりました。どなたも「耳なし芳一」を子供の頃に読んだことがあり、その他の作品をこの機会に読んでみたい、という思いがあったようでした。
私はといえば幼少のころに児童向けの昔話の絵本を読んだ記憶はあるのですが、小学生になり漫画に突入するや、昔話や童話の類を活字でじっくり読むということから遠ざかってしまい、ハーンの「怪談」も今回初めて読むこととなりました。

東京下北沢の古本屋クラリスブックス読書会怪談

また、今回驚いたのは、参加者が全員女性だったこと。女性は怖い話や昔話がお好きなのでしょうか?

さて、この『怪談』にはいろいろな話がありますが、今回の読書会で特に話に上がったのは、やはり「耳なし芳一」だったように思います。それ以外には「雪女」「ろくろくび」「かけひき」などなど。
全般的に言えたことは、「そんなに怖くない」ということ。もちろん、ちょっとおどろおどろしい話もありますが、どこかユーモラスで、少しファンタジックな話が多く、ギリシアとアイルランドの血を引くラフカディオ・ハーンならではといったところでしょうか。あるいは彼の人となりが成せる技なのでしょうか。翻訳を通してではありますが、ハーンの文章は平易できれいで格調高く、そして何より日本人の心情に深く精通しているのが驚きです。

「耳なし芳一」のはなしの根幹は800年あまり昔に滅んだ平家の怨念があります。平家滅亡後、数百年ののちその亡霊に取り憑かれた芳一の物語を、数百年の時を経てハーンが書き記し、さらに百年余り経ち、現在も読まれている。「耳なし芳一」という短い物語に刷り込められた壮大なクロニクルに、人間の情報伝達の執念を感じてしまいます。「むかしむかし、あるところに、」という物語のプロトタイプは世界共通として有り、日本を訪れたラフカディオ・ハーンもこの異国に点在するまだ見ぬ物語に魅了されたのでしょう。

岩波文庫版の序文に「雪おんな」のはなしが、調布の農民から聞いた伝説として紹介されていたのですが、あの物語が東京のはなしと聞いてびっくりしました。ハーンが暮らした20世紀初頭の東京の武蔵野は鄙びた田舎で、冬になれば深々とすぐそこに雪おんながいたのでしょう。たかだかこの百年のうちに調布は賑々しい住宅街へと姿を一変させて、雪おんなも居場所を失いその物語を伝達する術も消え失せていってしまうかもしれません。
「おはなし」を何百年と伝え継ぐには口承による伝達が大きくその役を担っていました。20世紀から今世紀にいたる急激な発展と変貌の中、様々な進歩を遂げた現在、過去へと目をむけることを怠りがちになり、物語の伝承が途絶えてきているような気がします。
今回の読書会に参加者の中で、田舎のおじいちゃん、おばあちゃんが土地の物語を語るのを聞いたことがあるかたがいらっしゃって、訛りがあり全部は理解できないのだが、その雰囲気を味わえたことは貴重な体験であったようです。
他所の町に出向き、その土地で忘れ去られようとしている物語を、掘り起し語り継ごうとする人たちもいるようです。社会のありようが変わって、人の動きも変わり、やり方を変え「おはなし」は受け継がれてゆくのでしょう。書物という形を通してですが、何かを遺していく作業に少しでも関わってゆけたらと思います。

東京下北沢の古本屋クラリスブックス読書会怪談 東京下北沢の古本屋クラリスブックス読書会怪談 東京下北沢の古本屋クラリスブックス読書会怪談

▲岩波文庫版と角川文庫版。入っている話に若干違いがありました。

クラリスブックス 石村

 

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