2015年5月
文・高松徳雄

ゴールデンウィーク中の5月3日に、当店にてブルガーコフ『悪魔物語』の読書会を開催いたしました。その時の様子をまとめてみました。

クラリスブックス読書会ブルガーコフ悪魔物語古本買取

今回は9人の方がご参加いただけました。誠にありがとうございます。我々クラリスブックスのスタッフを合わせて、計11人での読書会でした。この読書会以前にブルガーコフの『悪魔物語』を読んだ事のある方はいらっしゃらず、この会をきっかけに読まれたようでした。

まず、そもそもこの作品を読書会の課題図書に選んだ理由ですが、一つは、我々スタッフが読んだことの無い作品だったからというのと、前回が柴崎友香『寝ても覚めても』だったので、外国の作品がいいと思ったからでした。もう一つの理由として、この作品は、岩波文庫版が出る前は、集英社の「現代の世界文学シリーズ」という中に入っているものでしか読めず、初版は1971年なのですが、古書としてとても高く、確か当時(10年以上前)5,000円以上したのをとてもよく覚えていて、いつか読んでみたいな、と前々から思っていたのでした。

そんな思い出もあり、また、偶然集英社版が入荷したというタイミングもあって、この作品にしました。

さて、読んだ感想を簡単にまとめると・・・
異常な世界、幻想的、カフカ的、映画的な展開(スピード感がある)、風刺やユーモアが散りばめられている。象徴的、夢っぽい(おかしな設定だが、なぜか受け入れてしまう)、ロシア文学のどんよりとした雰囲気、、、などなど。

しっかりとしたストーリー展開があるようで、しかし途中からかなり支離滅裂な流れになり、結局、なんなんだ???という小説ですが、しかしよくよく読んでみると、数字が執拗に細かく登場したり、硫黄の匂いやガラスが多く現れる場面など、いろいろなものが当時の社会の象徴として描かれているようで、そして特に重要なのが身分証で、この身分証の有無が、自分自身の存在証明、そしてそれを失うことはそのまま自我の喪失のような、当時の社会批判を超えた、人間社会そのものの皮肉を込めた小道具のように使われていて、この作品は丹念に読み込むと、単なる幻想小説、怪奇小説というようにくくる事のできない、もっと深く人間の本質を追求した作品であるように感じられました。だからこそいままで読み継がれているのだと思います。

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私は当初そこまで読み込むことができませんでしたが、読書会で皆さんからのご指摘を受け、この作品の深さを実感することができたのでした。

徹底した管理社会=近未来という図式が頭の中で生まれ、そこに何か冷たく無機質ではあるけれど、不気味な機能美を感じる事がありました。20世紀初頭のソビエトという国が一体どのような社会で、人びとはどのように生活していたのか、私は詳しくは知りませんが、革命直後ということもあり、いろいろなものが激変した時代であることは間違いありません。そのような中で書かれたこの作品は、当時の社会を映したものである一方、その矛盾を孕んだ社会だからこそ浮かび上がってくる、人間の暗い本質を象徴的に描ききっていて、タイトルの『悪魔物語』というのも、そう考えると逆説的な意味を持ち、悪魔=社会、そしてそれは主人公コルトコフそのものなのかもしれません。

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今回のこの作品は、読書会をしなければそこまで深く考えられなかったのは間違いなく、皆さんの鋭いご指摘があって気づかされることが多々ありました。ロシア文学は、私は特にドストエフスキーが好きなので、なんとなくよく知っているように勝手に思っていましたが、しかしふと考えてみると、ソビエト時代の作品を読んだ事がなかったという事実に、今更ながら気づいたのでした。

『悪魔物語』はとても短い小説なので、一日で読み終えることのできるくらいです。いままでクラリスブックスが読書会で取り上げた作品の中では、もしかしたら分量としては一番短い小説だったかもしれませんが、その内容はとても濃く、一人で読んでいたら、短い作品ということもあり、そのまま素通りしてしまっていたかもしれないということを考えると、このような機会に読むことができて、とてもよかったと思います。

クラリスブックス 高松

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