2015年1月
文・石村光太郎

2015年1月11日、今年最初の読書会が行われました。課題本は向田邦子『父の詫び状』でした。今回は当日までに参加人数が定員を超えてしまい、向田邦子さんの人気の高さをあらためて知ることができました。参加されたみなさん、ありがとうございました。

古本買取クラリスブックス 向田邦子読書会『父の詫び状』

『父の詫び状』、これはエッセイ集です。描かれるのが向田さんの家族、友人知己、あるいは仕事にまつわるエトセトラなのですが、核となり描写されているのは自分の家族の事、昭和の戦前の家庭の姿です。記憶から呼び覚ましたエピソードと、そこに登場する人の喜怒哀楽を、ときにユーモアをまじえ、ときにしっとりと、巧みな筆致で捌いてゆきます。ページのそこかしこから、文字通り生き生きと「生活」というものが浮かび上がってきます。

父の転勤に伴い、数多くの出会いと別れの記憶。さまざまな人たち、さまざまな風景、さまざまな食べ物、さまざまな人生の話を読み、私たちは、やさしさ、ほっこり感、品の良さ、そしてせつなさを感じました。昭和を知る人は懐かしさを、若い人たちは憧れの念を抱いたのではないでしょうか。今回の読書会の参加者の方々も概ねこのような感想に落ち着いていったかと思います。

接続詞がほとんど使われずに文章が書かれているという指摘がありました。これは参加者一同虚を突かれた思いのようでしたが、なるほどこれが彼女の文章の端正な佇まいの一因かとみな納得の様子。
店主の高松と私は読書会の課題本として、自分たちが読んでいないものをできるだけチョイスするというルールを課しており、ふたりとも向田邦子は初めてでした。今回の読書会は課題本、および著者にかなり精通した方々が多く参加されたこともあり、課題本のみならず向田さんご本人やその界隈の話、そして向田邦子文学の魅力についてもいろいろ窺い知ることができ、『父の詫び状』に関しても、ひとりで読んでいた時とは違う印象が見えてきました。

古本買取クラリスブックス 向田邦子読書会『父の詫び状』

向田邦子さんは1981年に飛行機事故で51歳の若さで亡くなります。向田さんの人となりと人間関係について、さまざまなことが語られています。彼女は自らの身の上を語ること、語られることはどうだったのかと思います。『父の詫び状』はエッセイですが、ここに書かれている自分のこと、家族のことはあくまで素材に過ぎず、エッセイであってもフィクションであると思います。作品上の人物の情念や葛藤を描くことはあっても、自身のその深い暗い部分は一切周りに見せずに、毅然と生き抜いたのではないでしょうか。

こうして向田さんのハードボイルドな面にも触れたような気がした今回の読書会でした。
読書会を終え、あらためて「父の詫び状」に感ずることは、エッセイ中に出てくるいくつもの小さな挿話が人物描写も含め実に良質なコントを観ているような気がするということ。本業が脚本家とはいえ場面づくりが本当に上手い。これらの挿話をどう演出して読んでゆくかが『父の詫び状』楽しみだと思いました。

「向田邦子は接続詞のないハードボイルドなコントだ」
と、今回の読書会をまとめてみました。

古本買取クラリスブックス 向田邦子読書会『父の詫び状』

追記。
毎回読書会のレポートをお読みのかたの中には、これは読書会全体の意見なのか、お前の感想なのかようわからんと、思われるかたがおられるかと思います。正直私自身、書いていてよくわかりません。読書会を何回もやって思うことは、本を読むことはひとりではできないということです。本を読み、人の感想を読み、耳にして、時には正反対の感想に至る。そもそも一冊の本そのものがさまざまな知識の蓄積です。それぞれが混然一体となりはじめて糧になる。読書会で語られた人たちの意見はもう自分の意見でもあるので、くっきり分けてレポートするのは難しいのでこんな形で書いています。文章の不味さはひたすら私のいたらなさです。

 

クラリスブックス 石村

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